なぜ給与が下がり続けるのか?


1998年から日本の勤労者全体の給与総額が減少の一途を辿っています。勤労者全体が貧困化しているわけです。

 給与所得者数は増加を続けていますが、給与総額が減少していますから一人当たりの給与所得は急速に減少しています。我が国では人口統計上1995年から労働力人口が減少していますが、実際の給与所得者数は増加を続けています。専業主婦が、夫の賃金が下がった為に働かざるを得なくなったためと考えられます。


 継続的な労働者給与の低下は、他のOECDの加盟国には見られないようです。少子高齢化が早くから進んで労働力人口の減少が早くから見られた北欧やEU諸国にも見られません。

 商品の生産や販売にはコストとして労働者の賃金が含まれます。その賃金が安くなっているわけですから、安く物が生産できるので供給は増えます。もちろん所得が減っていますから高い物は買わない。こうして需要が減って来て、その結果物価の下落が起きています。デフレです。


 発明発見、新技術開発や設備投資により通常年3%程度の経済成長は続くものです。重大な自然災害で1年程度の経済成長の低下は有り得ます。しかし、これほどの経済成長の低迷は通常では考えられない事です。
 1998年以前に、何か大きな政策の失敗が有ったのではないでしょうか?


1998年以前の雇用や賃金に関係した資料を探してみると、総務省でとりまとめている経済関係資料に雇用形態別雇用者数という統計が見つかりました。

雇用形態別雇用者数(単位:万人)
 年 正社員  パート   派遣・契約・その他
1995  3,779    825     176
1996  3,800    870     173
1997  3,812    945     207
1998  3,794    986     187
1999  3,688   1,024     201
2000  3,630   1,078     195
2001  3,640   1,152     208
2002  3,486   1,023     383
2003  3,444   1,092     404
2004  3,380   1,106     449
2005  3,333   1,095     496
2006  3,340   1,121     542
2007  3,393   1,165     561
2008  3,371    1,143     594
2009  3,386    1,132     567
 資料出所;総務省労働力調査


 最近15年間で正社員は、393万人減少しています。非正規社員は698万人の増加です。パート労働者も増加していますが、派遣・契約社員・その他の非正規社員の増加が著しいですね。
 労働者派遣に関しては、1999年に労働者派遣法の規制が大幅に緩和されていました。勤労者総賃金の減少の背景には、この法改正が大きく影響しているようです。正社員を雇うよりもパートや派遣労働者などを雇う方が低賃金で雇用できますから。

 新規学卒者の就職内定率が減少していることと、正社員数が減少していることは関係が深いと言えます。新規学卒者が正社員としての就職に拘ると就職できない学卒者が増加してしまうことになります。
 
 日本の産業界は、中国や韓国、台湾などの低賃金国家の企業との国際競争を勝ち抜くために熟練労働者や技能労働者ではなくても生産できる消費財コモディティ化商品)を低コストで生産し、輸出競争に勝ち抜こうとしているのでしょう。
 「輸出競争力を高めるために如何にして社員の賃金を下げ続けるか」ということが経営努力の主要な目標になっているようです。
 
 このようにして総賃金は減少をし続け、日本の内需は低迷してしまい、GDPも低迷しています。国民が低賃金と長時間労働に耐え続ければ、コモディティ化商品輸出立国というこのビジネスモデルは継続できるでしょう。その結果、労働者の賃金の減少は続き、GDPも低迷し続けます。

 過剰な輸出による貿易収支の大幅黒字が続き、所得収支も大幅黒字が更に拡大しそうなので、実需の円買い(外国で儲けた利益を外国通貨を売って円を買うことで国内に持ち込む)により為替の円高も継続することになるのでしょうか。